• TOP
  • Inside Deep Throat Special Futures

「Inside Deep Throat」と言う新曲をALCOHOL AND PUBLIC HEALTHが作り上げた。それは1stアルバム「インフェルノフェイク」を発表してから間もない時期であった。そんなタイミングで「Inside Deep Throat」を聴いた時、思わず言葉を失ってしまった。この曲を聴き始めた時に思ったのはすでにこのバンドは「インフェルノフェイク」を過去の物にしてしまったんだと言う寂しさと驚き。それらを捨てたALCOHOL AND PUBLIC HEALTHがあまりにも遠くディープな存在に感じてしまった。色々と考えているうちに「Inside Deep Throat」を聴き終えた時、深い海に沈んだまま浮いてこれない自分がいた。何も理解できず、何の答えも思いつかないままこの曲は二度と同じ場所には帰らないのだ。


ベースとピアノのみで構成された、異次元のバンドサウンド。

「Inside Deep Throat」の演奏はベースとピアノだけで構成されたシンプルなものになっている。ALCOHOL AND PUBLIC HEALTHと言うバンドの楽曲でありながらこの楽曲はまさにバンドサウンドの破壊をしたとも言えるかも知れない。なぜギターとドラムは参加しなかったのか。「Inside Deep Throat」を聴けばその疑問は解決してしまう。全篇を通してサイレントな演奏はボーカルの声、歌詞を一層際立たせていてもはやボーカルさえも楽器の一つとして聴こえてしまう一体感を成している。「Inside Deep Throat」はALCOHOL AND PUBLIC HEALTHの表現力のすごさを感じてしまう。ベースとピアノだけで流れるサウンドはどの曲よりも遥かにディープだ。そして驚いてしまうのが聴き終わった後に感じてしまうALCOHOL AND PUBLIC HEALTHと言うバンド。ここまで形とジャンルの変化をしながらも確かに今聴いていた「Inside Deep Throat」はALCOHOL AND PUBLIC HEALTHの曲なのである。

ボーカルのミナグチはこの楽曲に当てた歌詞を形のはっきりしない漠然としたものにしたと言う。聴いている者を歌詞が誘導するのではなく、この曲の物語や世界観を想像し作り上げて行くのはリスナーに任せたいと言う意図があったのだと言うのだ。確かにこの曲の詞は曖昧だ。"夢"や"現実"を示唆する内容であるのは分かるが物語の進行や登場人物、そして"ディープスロート"とは何処なのか。歌詞だけを読んで行くと真意は不透明である。しかし楽曲全体でこの歌詞を聴いた時、自然と耳に入り歌詞に表現されていない部分を自分自身の想像で埋め合わせ、いつの間にかストーリーを作っていた。小説を読んでいる時に頭の中でシーンを想像するのと似ているかもしれない。そしてこの曖昧な歌詞の中で唯一現実味を帯びており悲しくもはっきりとしている部分が「踊っても 踊っても 覚めてしまう夢を見るの」。全てこれで"ディープスロート"の旅は終わってしまうのである。

文:Mitsuo Inagawa