INTERVIEW

Chemical Fiction planと独白

ミナグチダイチ×猪名川光子

INTERVIEW

ミナグチダイチ×猪名川光子「Chemical Fiction planと独白」

ミナグチダイチ×猪名川光子の対談で2ndアルバム「Chemical Fiction plan」を紐解く。

パブヘルにとってポップロックってもう主体じゃない

猪名川|ミナグチ君と初の対談と言う事で、、とりあえず今の心境は?
ミナグチ|そうだね(笑)、うーん今は(完成したって言う)実感がないんだよね。
猪名川|うん。
ミナグチ|作り始めた時からずっとそうなんだけど、出来上がった曲を通して何度も聴いてて。その度「このアルバムはどうなるんだろう」って自分自身分からなくなってって今に至るみたいな(笑)。だから今は精神的に「完成したー」って所まで来てなくてね、「どんなアルバムなのか」って所なの。
猪名川|私も「Chemical Fiction plan」を一通り聴かせてもらってさ、正直分からない(笑)。
ミナグチ|うんうん。
猪名川|だってパブヘルと言えばポップロックってマストなイメージで、「インフェルノフェイク」なんて正にそれで。パブヘルがこの先どんなに変わって行ってもきっとポップロックって言うものはバンドの血であって色や形を変えて生きて行くと思っててさ。
ミナグチ|うん。
猪名川|でも「Chemical Fiction plan」はどうなのかって。ポップロックが色んな引き出しの中の一つと言う存在でしかなくなってるじゃん。「ポップロック主体でたまに変わった路線で」じゃなくて。
ミナグチ|確かにそうだね。
猪名川|ポップロックは捨てたの?
ミナグチ|捨ててないよ(笑)。でも言われた通りで、今はポップロックは主体ではなく手法の一つとして考えてるかな。
猪名川|それはミナグチ君的に言うと「インフェルノフェイク」でやり込んだから?
ミナグチ|そうそう。あの頃はポップな雰囲気でロックをやってみたいってのが大きくて。だからうちのバンドでどこまで作れるかってすごいやり込んでた部分があってさ。結果「インフェルノフェイク」がすごくいい形で残せたと思うし。だからもう今はポップロックをどこまでやれるかって言うのはよくて。「Chemical Fiction plan」のテーマが「インフェルノフェイク」よりポップロックで、なんてつまんないし。そういう所でパブヘルにとってポップロックってもう主体じゃないと思う。
猪名川|そこで「Inside Deep Throat」が来たと。
ミナグチ|「Inside Deep Throat」はそれとはちょっと違くって。あの頃結構人当たりの良いキャッチーな曲が続いてたじゃない。反響とかも大きくてそれは嬉しかったんだけど俺たちみたいな趣味でやってるようなバンドの価値ってどれだけヒット曲を量産できるか、ファンを増やすかではないなって思って。じゃあ何なのかってそれは自分達の本当にやりたい音楽をやれるかでしょ。そしたら性格の悪さも出て「Inside Deep Throat」が完成しちゃったみたいな(笑)。

他人の憂鬱って見ていて心地良いのよ

猪名川|すごくビックリした(笑)。パブヘルの新曲がピアノインベースなんて。
ミナグチ|でしょ?あれで何かラインがぶっ壊れた気がする。「パブヘルはここまで」って言う境界線みたいな。今までマスダさんのギターって俺にとってすごく重要でさ、それは今でも変わらないんだけど何か作りたい曲がある時ってのはやっぱり俺にとって彼のギターって絶対必要だし大切な存在。そのマスダさんにパブヘルの新曲なのに「今回は見守ってて」って言う。マスダさんとアライ君のいない環境でパブヘルの血が流れてる曲を作るって言うのは俺の中ですごい挑戦だった。
猪名川|他のバンドは絶対やらない挑戦だと思うよ。
ミナグチ|うん(笑)。そこも俺は何か絶対的に価値観が違うと思うのよ。他のバンドしてる人達の「全員で鳴らす、誰かが抜けたら違う」みたいな価値観、俺は違くて。パブヘルってバンドをやってるなら誰か一人でも、2人きりでも誰かいなくても全員いてもパブヘルの血が通った音楽を鳴らせないと。それを証明する挑戦でもあったんだよね。
猪名川|だからパブヘルってとことん他のバンドと違って異質だと思う。もう目指してる所が違うよね。別に褒めちぎるつもりはないんだけど演奏力、クオリティとかそう言う以前にバンドってものの考え方が違う方向を向いてる。だから作る曲にすごい驚かされる。
ミナグチ|うんうん。
猪名川|とてもじゃないけど他のバンドやってる人達には着いて行けない領域の考えでパブヘルは進んでると思う。「意味わかんない」とか「バンドってこういうもんだ」って行って普通のバンドマンなら逃げて行きそう(笑)。それなのにパブヘルのメンバーって全く同じ方向を向いて音を鳴らしてる感がすごくて。
ミナグチ|俺もすごいと思う(笑)。みんな変わり者だからね、俺もそうだけどみんな他のバンド行ってもやって行けないと思う(笑)。
猪名川|やっぱりパブヘルって異質だよ(笑)。そう聞いてると「Chemical Fiction plan」ってもっともっとマニアックでコアなアルバムになりそうなのに意外にも「これシングルになりそう」な曲がポツポツあるよね。
ミナグチ|ああうん。
猪名川|そうそう、ずっと思ってたのはパブヘルって結構キャッチーで大衆向けなそれこそヒット曲を作るじゃない?「あなたの腕も髪も」なんてどんだけ商業バラードなのと。「愛してる」とか「NO.9」でチラっと見えるあれこそパブヘルの本当の姿なんじゃないかと。
ミナグチ|うーん(笑)時々ね、狙いに行きたくなると言うか、「いい曲じゃね?」ってやりたくなるのよ(笑)。それこそ俺がお経にハマって、シングル2~3枚連続でお経しか入ってない曲出しちゃったら、4枚目のシングル誰も聴いてくれなくなるじゃん。それはそれでやりすぎだけどさ。あとはまあ、分かりやすく伝えたい時となんかめちゃくちゃにして本位を隠したい時があるかな。
猪名川|「愛してる」はどう?
ミナグチ|あれはストレート。作ってる時の憂鬱まで曲に込めたくて、ただただストレートに作った。俺思うんだけど他人の憂鬱って見ていて心地良いのよ。映画とかでよくある急に静かなシーンになって、雨が降ってて主人公は物思いに耽って…って所とかなんか落ち着くんだよね。だから作ってるこっちはすごい憂鬱で歌ったんだけど聴いてる方は心地良い曲になるのかなって(笑)。
猪名川|それは何なんだろうね。自分より憂鬱なシーンを見て心が安心するのかな。

パブヘルでやる音楽ってのを悩みながら作り続けた

ミナグチ|共感を求めてる生々しいものじゃなくて、映画みたいなシーン、それこそつまり(聴き手にとって)フィクションなんだよね。この曲は。
猪名川|パブヘルの楽曲ってすごい中性的でさ。フィクションの中にどこかリアリティがあったり連想させるものがあったり、それは今回のアルバムでも思った。
ミナグチ|本当これは個人的な考えなんだけどね、なんて言うか「元気出そうぜ」とか「笑おう」とか聴いてる人に語りかけちゃう曲って好きじゃなくて。なんか作ってる側の気持ちの押し付けじゃん。これは悲しい曲だ、明るい曲だとかってそれは聴いた人が感じてくれればいいと思うのよ。
猪名川|それは最初から?
ミナグチ|パブヘル始めた時からずっとそう。だから中性的って言われるのはそこから来てるんだと思う。俺もそれで良いと思うし、アルバムもやっぱりそれは意識したかな。
猪名川|聴き手に委ねると。
ミナグチ|そうそう。結局(収録曲)全部(聴き手にとって)フィクションなわけで。そこから何を切り取ってどう感じるのかは委ねたい。俺たちは手は引っ張って行かないけどどこかへ連れて行っちゃうみたいな、アルバムを聴き終えた時に心に何か残せるような、そういうアルバムにしたくて。その場所とか、何かって言うのを俺たちが決める事はしたくなかったの。
猪名川|フィクションのプランニングって事で「Chemical Fiction plan」だと。
ミナグチ|そのタイトルも悩んで悩んで(笑)。タイトルに何かパブヘルってぽい単語を入れたくて、前回が「インフェルノ」だったじゃない。悩んだ挙句ふと浮かんだのが「ケミカル」だったのよ。後はスラっと繋がった感じで(笑)。今思えばピッタリなタイトルで良かったなぁって。
猪名川|なんかバシっと付けたのかと思ったら意外に悩んでたんだ(笑)。
ミナグチ|悩みすぎて途中タイトルを日本語にしちゃおうかとかも考えたり…。それこそアルバム製作決まってからずっと考えてたから(笑)。今のタイトルに落ち着いたのは今年入ってからだから2年くらいタイトル付けが心の悩みの種だった(笑)。
猪名川|完成まで2年だもんね。
ミナグチ|今思えばもう完成かって感じだけど決して短くは感じない2年だったなぁ。アルバムを作りながらパブヘル自体の事も色々考え続けてた2年間だったし、さっきの「Inside Deep Throat」の話もそうだしパブヘルでやる音楽ってのを本当に悩みながら作り続けてたね。バンドに変化を求めてたわけじゃないんだけど、現状維持ってのもつまんないしもっとパブヘルで出来ることがあるんじゃないかって漠然とした気持ちでアルバムを作り続けてた。
猪名川|スタジオに篭りっぱなしだったもんね。
ミナグチ|精神的に余裕がないからみんなの前に立って「パブヘルの曲を聴いて下さい!」って気持ちになれなかったのよ(笑)。パブヘルって何?ってすごい自問自答してたから。だからその答えが欲しくてただひたすらデモテープを作ってレコーディングしてを繰り返してた。その期間得るものも失うものもあったり。しょうちゃん(※長尾将三郎)が抜けたり。
猪名川|長尾君はレコーディング期間中でパブヘルから抜けてるよね。
ミナグチ|アルバムをね、作り始めた頃にはまだ一応バンド活動には参加してたんだけど、でも今しょうちゃんがいてもたぶんアルバムの内容って変わってないと思うのよ。実は一番アルバムとバンドに悩んでた時期ってのはまだしょうちゃんがいた頃なんだけど、「Inside Deep Throat」の時くらいからパブヘルで作りたいって曲にラップがないってパターンがすごい増えてきて。だからしょうちゃんが途中でパブヘルを抜けたのは本人の事情がきっかけだったんだけど、結果しょうちゃんが抜けた事によってすごく遠慮なしに作りたいもの作れたってとこはあると思う。

もうマスダさんの欲望のままやらせようと決めてて

猪名川|だからこそアルバムには「あなたの腕も髪も」と「Sadisfaction」も含まれていると。
ミナグチ|そうだね。しょうちゃんが参加してた曲は結果それしかないんだけどやっぱりその2曲は「Chemical Fiction plan」の一部だしパブヘルの血が流れてるし外せないなと。だからしょうちゃんにはすごい感謝してるしありがとうって言いたい。今しばらくはないけどまたいつかしょうちゃんが本当に必要な曲が来たらまた戻ってきてもらって一緒にやるかもね(笑)。
猪名川|長尾君の事もそうだし音楽性の追求もそうで本当の意味でパブヘルって何なのかを追求できた2年だったと思う。現状維持を捨てて作った「Chemical Fiction plan」だけどこのアルバムってすごいパブヘルと言うか、パブヘルがパブヘルを超えて作ろうとしたものは結局濁りのないパブヘルだったんじゃないかと思う。
ミナグチ|そうだね。
猪名川|でも一曲一曲を摘まんで見ると「こんなのやるんだ」って意外なのが多かった気がする。「It's A Wonderful World」なんて最初ビックリしたし。爽やかでロマンチックで、でも全体に漂うブラックユーモアな香りが絶妙で(笑)。
ミナグチ|「It's A Wonderful World」と「SOLID」は対極的なんだけど兄弟みたいな曲でさ。「SOLID」はマスダさんがとにかくヘヴィな曲をやりたいって言うのよ。いつもだったら俺が「少し柔らかくしよう」とか言って完成までにはだいぶ(激しさが)緩和されるんだけど「SOLID」はもうマスダさんの欲望のままやらせようと決めてて。逆にポップでトゲのない曲とかをやる時はマスダさんが「つまんない」とか文句言ってくるから、「SOLID」はマスダさんの欲望のまま、「It's A Wonderful World」は俺の作りたいようにって決めて作ったからそういう意味で兄弟的な(笑)。
猪名川|お互いに文句を言わない契約で作ったわけだ(笑)。
ミナグチ|いつもは俺とマスダさんの二人が納得できる妥協点で曲がまとまるから(笑)。そういう意味ではもう今更だけどマスダさんと俺は音楽性なんて全然違うのよ(笑)。だけどお互い楽しくできたと思う。俺も「SOLID」に一生懸命だったしマスダさんも「It's A Wonderful World」に真剣だったし。だからそういう曲の作り方もまた良かったなと(笑)。
猪名川|ここまでメンバーに音楽性が違うって言う人もいないよね(笑)。
ミナグチ|それはずっとよ(笑)。趣味も違うからプライベートの会話なんてほとんどしない(笑)。
猪名川|仕事(プロ)ならまだしも趣味で集まってやってるのに不思議な関係だよね。
ミナグチ|音楽性はね、全然違うけどお互いのセンスを認めてるから一緒にバンドができてるんじゃないかな。バンドメンバーって家族でも友達でもない、バンドメンバーって言う人間関係なんだよね(笑)。
猪名川|そういう音楽性の違いがパブヘルの中性的なジャンル「パブヘル」な音楽を作れる要素なんだろうね。
ミナグチ|みんな変わってるから、バラードを作ろうって言ってもマスダさんがギター歪(ひず)ませて、カネコさんが暴れ始めてアライ君が連打し始めて、バラード作りたかったのに変な曲になっちまった…みたいなだけでさ、完成してみたら「なんじゃこりゃ」みたいな(笑)。
猪名川|(笑)
ミナグチ|今のはまあ冗談として(笑)、でも曲を作っていく過程でどんどん考えてなかった方向に曲が変わっていくってのは良くある話でさ、それはすごい面白いと思うんだよね。「ああこのバンド面白いな」って。

答えはなくて「どうあってほしい」かなんだと思う

猪名川|ちなみにアルバムで一番思い通り作れた曲とそうでなかった曲は何?
ミナグチ|思い通りって意味では「NO.9」かな。ただ同時にすごい難しくもあった。あれは最初作ろうって時にメンバーに説明できなくて(笑)。だから少しずつ作りながら形にして行ったのかな。これは思い通り作れたってだけあって最初から最後までルートに沿ってレコーディングをしたから、あとは頭の中にあるやりたい事をメンバーに伝えながら。でも「どうすればいいかな」って他の人に聞けないしこの曲は完成まで本当大変だった。
猪名川|「NO.9」を作ろうと思ったきっかけって何?
ミナグチ|演奏じゃなくて「音」で構成した曲を作りたくてさ、ドラムは目いっぱい割っちゃってさ、ノイズがリズム刻んでるみたいな。ギターも無作為な音がどうしても欲しくて、でも人間が弦を触るとリズムとか音程とかがどうしてもわざとらしくなっちゃうからって事でマスダさんの愛用ギターにガムテープ貼ってそれをゆっくり剥がすときに出てくる音を撮ったり。無作為、歪み、雑音とノイズを音楽的に使って表現したかったのが「NO.9」なんだよね。
猪名川|そんな曲が2枚目の1曲目で、つまり「Chemical Fiction plan」第2部の頭ってのは本当大きいと思う。アルバムを通して聴いてる時は気づかないんだけど「NO.9」まで聴いた時にこのアルバムの1曲目が「It's A Wonderful World」だったって思い出すともうそれが別のアルバムの事みたい。別の次元のようで。「知らない間に私すごいディープな所まで来ちゃってたな」って思った。「NO.9」ってすごい深い場所に鳴ってて、でも「It's A Wonderful World」聴いてた時の精神は全然上の方。それを知らない間に深く深く降りて行って、気づいたら「It's A Wonderful World」と「NO.9」ってすごい高低差があるんだなって。
ミナグチ|うんうん。
猪名川|だからもっと言えば「世界を包み込む悲しい光の雨」を聴き終えた時は精神的に全然違う場所。「It's A Wonderful World」なんて忘れてるんじゃないかってくらい遠い場所。きっとその時初めて「Chemical Fiction plan」の全貌が少しだけ垣間見れた気がしたけどたぶんまだ私には「Chemical Fiction plan」って何なのって言われると答えられないな。
ミナグチ|俺にもやっぱりまだ分からないからね(笑)。漠然とし過ぎてて、自分が何をしたのかをこれから見つめ直して行ければと思う。
猪名川|「Chemical Fiction plan」はどんなアルバムかってプロフィール的な事は言えちゃうじゃない?「あなたの腕も髪も」が収録されていて~とか。で中身の話だとうーん、暗いのか明るいのか、悲しいのか怒りなのか。「Chemical Fiction plan」の最後が「世界を包み込む悲しい光の雨」って言うのがまたどちらの曲なのかって。最終的な場所はきっとそんな暗い場所じゃないんじゃないかって希望を持っちゃったり。
ミナグチ|たぶん答えはなくてさ、結局「どうあってほしい」かなんだと思う。
猪名川|うん。
ミナグチ|「Chemical Fiction plan」に希望を持ち寄せたい人にはきっとそう聴こえて、「Chemical Fiction plan」に悲しさを感じ取ってしまう人は希望なんて見えないんじゃないかな。でも違う何かを期待してしまう、みたいな。結局希望を持ち寄せた人も、その希望や愛の終わりを心配していたり、希望を信じられない人も希望や愛をどこかで待ってるんじゃないかな。そういうのを見せれたらいいなって思う。
猪名川|とりあえずこれからだと思う。「Chemical Fiction plan」はどんなアルバムでパブヘルは何を作ったのかって、私たちもそうだしパブヘルにとってもこれから。
ミナグチ|2年間も作ってたからね。今度は落ち着いてその2年間の形をじっくり味わって。